「社長と同じと思って接しなさい」
プロ野球選手のことを、
僕は野球界の先輩にそう教わった。
テレビ局で12年、スポーツのディレクターをやっていた。
プロ野球の世界にどっぷりで、選手と接する機会は、
たぶん一般の人よりずっと多かった。
そんな中、プロ野球選手🟰社長 という概念は
常に忘れず持ち続けてきた。
それくらい、僕たちの常識では推し量れない
世界の住人だと思っていた。
じゃあどうやって接するの?
社長には、いろんな人が寄ってくる。
だから、人の名前を覚えることがまず難しい。
聞いたときは「あ、そうなんだ」くらいに思っていた。
簡単に自己紹介して、2、3回会話すれば、
普通は覚えてもらえると思っていた。
顔も覚えてもらえると思って、接していた。
それが甘かった。
社長(プロ野球選手)は、
よくわからない人から話しかけられる回数が、桁違いに多い。
スタープレイヤーなら尚更である。
こっちは仕事として、取材という体で何度も話しかけている。
覚えてもらっているつもりでいる。
でも実際は、相手からしたら自分なんて
のっぺらぼうなのだ。
距離が縮まった気になっていると痛い目にあう。
勘違いして気さくに話しかけると、
距離感を疑われてめんどくさがられる。
下手したら嫌われる。
駆け出しの頃の、典型的なミスはこんな感じだった。
プロは、常に人を見極めている
スター選手は、社長と同じ。
いろんな人間が自分めがけてやってくる。
だからこそ、人を見る目が超一流だ。
「自分にとって安全な存在か」を見極めようとする目を、
皆が持っている。
選手は人をふるいにかけて、
残った人としか基本、話しません。
限られた時間で厳しい世界を生き残るには、
そんな作業も必要なのだ。
だけどそのふるいに残らないと、
僕たちは一歩先の取材に進めない。
のっぺらぼうから抜け出せない。
ただ企画書を投げればいい、というものではなかった。
じゃあ、僕たちは何を見られているのか?
僕の経験上、たぶんこの3つだ。
①浮かれてたり、挙動不審は門前払い
堂々としていない人は、相手にされない。
若手時代などは特にそうだが、
メディアの人間であっても野球選手の前だと普通に話せなくなる。
言葉が詰まる。
訳のわからないことを口走る。
いつもと違う挙動に出る。
実際に準備不足だと、
取材の問いかけも支離滅裂になるのだ。
「これって、どうすか」みたいな、完成していない問いを投げてしまう。
頭が整理できていない。
テンパっている。
必要以上に謙遜しているからである。
しっかり、
「これについてどうお考えですか?」
と言えばいいだけ。
でもできない。
目が泳ぐ。挙動不審。質問が最後まで完成しない。
これは、野球選手に限らず、
一流の人の前で速攻でふるいにかけられる。
相手が大物であるほど、堂々と。
問いかけや会話は、最後まで完成させておく。
まずこれだけで違う。
②雑談で得た秘密を守らない
二つ目。
これはマスコミだったから、余計に感じたこと。
「こいつは、自分の情報をどこまで話していいやつか」
選手のそこへのアンテナの張り方は、異常だった。
当たり前のことだ。
でも、その当たり前を破って揉めた人を、僕は何人も知っている。
だから僕は、聞いたことを家族にも身内にも言わなかった。
発信するときは、本人や広報の許可を取る。
それだけは守っていた。
ただ、ここには罠がある。
本音の情報を社内で共有したり、
オンエアに乗せたりすれば、自分の社内での評価は上がる。
仕事ができる、という評価になる。
メディアの人間は、全員この間で揺れている。
この情報を出すのは、相手のためか、自分のためか。
「世の中のため」
「ファンのため」
「知る権利」を全面に押して内心を誤魔化してはいけない。
実は自分のためというのは、バレている。
その葛藤は、僕の中にもずっとあった。
③明らかに忙しいタイミングで連絡する
三つ目。
相手の時間感覚を理解すること。
例えば、1億円プレイヤーのLINEを知っていたとする。
仲良くなりたい。連絡したい。
でも、ホームランを打った日に
「おめでとう」を送っても、
たぶん数十人、数百人の「ナイスバッティング」に埋もれるだけ。
既読がつかない。既読スルー。全然ある。
相手の立場になれば、そりゃそうだ。
どうせなら返信ストレスの少ない方がいい。
相手の時間軸をイメージしなければならない。
極限まで、相手のことを想像しなければトラブルとなる。
自分はここぞの連絡でお願い事があるときは、
1ターンで終わる構成にしていた。
かかっても2ターン。
スタンプでも成立するように。
断られそうな要素は先に潰しておいて、
相手が「はい」か「いいえ」だけで返せる形にして送る。
食事に誘うのも同じで、
遠征明けの月曜は、家族と過ごすだろう。
移動して戻ってきただけの日は、疲れているだろう。
なら、練習だけの日のこの辺か。
と、相手のスケジュールを想像してから誘う。
基本予想なんて外れるが、イメージすることが大事。
逆に、向こうから誘いが来たら仮に「15分後集合」でも行く。
このフットワークだけは大前提。
時間の価値が、僕らと同じじゃない。
いかに手短に、必要なタイミングで、
相手にとって最低限のカロリーで済ませるか。
信用は、この積み重ねで築かれる。
相手のためか、自分のためか
まとめると、ふるいに残る条件は3つ。
①堂々と、最後まで喋り切る。
②秘密は、死んでも守る。
③相手の時間軸で、考える。
当たり前すぎて拍子抜けだと思いますが、
自分より何倍も成功している人を前にして、
信用を勝ち得ることは容易ではない。
僕は基本的にはあまり、できなかった。
そして3つの根っこは、たぶん全部同じ。
「それは相手のためか、自分のためか」
この問いに、毎回正直でいられるかどうか。
これが正しいかどうかはわからないが、
12年間で得た教訓。
答え合わせの機会は、これからも増えていく。
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最後まで読んでいただき、ありがとうございました。





